記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「雪の様子が変だって、気がつかなかったのか?」
「今日はランチの約束をしていたから会社のロビーで待ち合わせてたけど、仕事が入ったからってランチが中止になったんだよ。あの時……」
朔は言葉を切った。
受付嬢たちが勝手に盛り上がっていた婚約者がいるだとかいう戯言の後、明らかに雪乃の様子がおかしかったではないか。
朔の顔も見ず、とにかく彼から離れたいと物語っていた。
「くそっ! ヒナのコテージってどこにある?」
「あの場所について知っているのは、おふくろさんだけだよ。まあ……たとえ、オレが知っていたとしても、教えないけどな」
朔は卓馬に言葉を返す時間も惜しいといった感じで、まだ止まっていたエレベーターに乗り込むと地下駐車場に下りた。
まだエンジンの温かい車に乗り込み、とにかく何も考えが浮かばないまま、かつてよく出入りしていた雪乃の実家を目指す。
たいして混んでいない道路にも関わらず、いちいち信号に引っ掛かることに苛立ちと同時に焦りを感じはじめて、朔は指先で何度もハンドルを叩いた。
少しでも気を紛らわせようと窓の外に目を向ければ、夜ともあって恋人同士が寒さの中で身を寄せ合い、耳元で愛を囁き合う様子ばかりで目を反らした。
朔だって、あんな風に雪乃と恋人同士の甘い時間を過ごすことを、昔から夢見てきた。
そして、もう少しで思い描いてきたこと全てを実現できるところまできていたのに、一瞬で泡となって消えた。
だが、諦めるつもりは微塵もない。
これから会ったとしても、おそらくは言い合いになるだろう。
雪乃の心を取り戻すには、かなり苦労することも想像できる。