記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「実は……恵理子さんたちが北海道に行ってる間に、ヒナと再会して俺はアプローチ中です。報告が遅くなってすみません」
「あらまあ、これだけの時間離れていたのに、未だに雪乃が好きなのね、あなたは。どうやら、あなたのお父様とお祖父様の予感は外れたみたいね」
「予感、ですか?」
恵理子はゆっくりとお茶を飲むと、朔の目を真っ直ぐ見て言った。
「そうよ。あなたの恋心は、幼い頃に芽生えたものでしょ? お二人は、鳥の雛が初めて見たものを親だと思う刷り込みだったんじゃないかと思っていたのよ。条件を出して引き離せば、時間が経つにつれて思いが恋ではないと気づくだろうってね」
だからかと朔は思った。
イギリスにいる間、何度もパーティーに連れていかれるし、同い年の女性を紹介される機会が何度もあった。
あの頃は、そういうものかと軽いデートみたいなことはしていた。
けれど、いつだって頭の頭の片隅に、心の片隅には雪乃の存在があったのだ。
同い年の子と出掛ける度、彼女はどんな姿に成長しているのだろうかと想像していた。
「あなたのことだったんですね」
沈黙を破ったのは、雪乃の女性編集者だった。
朔がちらりと視線を向けると、女性は姿勢を正して頬を赤らめた。
「あ、すみません。あたしは、雪乃さんの担当をしているもので、東金朱音と申します」
「どうも、大上朔です。ところで、俺のことってどういうことですか?」
「あの……雪乃さんが作家デビューした頃から担当なんですけど、初めて会った時に一緒にお話をしている時に聞いたんです。どうして小説を書き始めたんですかって」
小説家になったことは知っていたが、朔も何故なったのかは知らない。