記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
13 全てを無にするような雪
暖まったコテージの部屋で、温かいココアの入ったカップを両手で包み込むように持っていた雪乃は、窓の外を見ながらほっと息を吐いた。
コテージに着いて二時間。
帰りの途中で会った親世代の隣人から、今夜の大雪の忠告を受けた雪乃は、せっせと薪を玄関に運び、さらにガレージから雪かきスコップも移動させておいた。
そんな訳で、たどり着いてから、今ようやく一息つくことが出来た。
都会とは違い窓の外に広がるのは、敷地の一部である木々の茂る森だ。
暖炉の中で爆ぜる薪の音を聞きながら、外を眺める時間は雪乃にとっては至福の時である。
無心になれ、嫌なことも、騒音にも悩まされなくてすむ。
ココアを飲み干しカップをシンクで洗ってから、暖炉前に敷くカーペットを出し玄関近くにある収納庫で他にも暖かそうなクッションと膝掛けも取り出す。
記憶が正しければ、東京に行く前にカーペットを洗ってしまっておいたものだ。
暖炉の前にカーペットを広げ、部屋が冬の装いに変わったことに気分が上昇してきた雪乃は、さらに冬物の服を出してしまおうかと部屋に入ろうとしてーーチャイムが鳴った。
誰だろうと思った。
宅配便は頼んでいないし、両親や卓馬が訪ねてくる予定もない。
不信に思いながらテレビインターフォンのある場所まで近づき、画面に映っている相手を見て自分の目を疑った。
カメラの向こう側には、朔がいる。
まさか、ここまで追いかけてくるとは思いもしなかった。彼は、この場所を知らないのだから。
一層のこと居留守を使おうかと思ったが、雪が降るであろう天気の中で待たせるのは気が咎めた。
仕方がなく、雪乃は通話ボタンを押した。