記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「そんな相手はいない。これまで、いたことすらないよ」
「嘘っ! あなたの会社の受付の子が話しているのが聞こえたもの。あなたには綺麗で知的な婚約者がいるって」
体に回された腕の中で振り返り、朔の胸を拳で叩いた。
「あの時、すごく親密そうだったじゃない」
「あの時って?」
本気で分からないといったようにぽかんとしている彼に苛立ちが沸いて来る。
「とぼけないでよ。会社で待ち合わせたとき、一緒に下りてきた女性よ。彼女が婚約者なんでしょ!」
自分の気持ちをぶつけるように、拳で胸を何度も叩いた。
けれど、自分の手が痛くなるだけで、昔と違って逞しくなった朔は何の痛みを感じていないかのようにびくともしない。
そんな様子も、今の雪乃には腹が立ってしょうがない。