記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!




「……もしかして、玲奈のこと?」

「名前なんて知らないし」

 名前で親しげに呼ぶ時点で、かなり親密な関係であると匂わされた気がして、雪乃は面白くなくて朔の胸に額をぶつけた。

「なら、勘違いする前に俺に聞くべきだ。不確かな情報や他人の言葉を信じて悩む前に」

「不確か?」

 疑心暗鬼気味に顔を上げれば、優しい口づけが額に落とされた。

「そうだよ。玲奈は、兄さんの婚約者だ」

「兄さん?」

 ぱちっと木の爆ぜる音に混じって聞こえてきた聞き慣れないワードに、聞き間違いかと首を傾げた。

「お兄さんなんていたの? てっきり一人っ子かと……」

 初耳だった。
 若い頃に何度も朔の家に出入りしていた雪乃だったが、一度だって使用人のおばさんと彼以外の姿を見たことがない。
 
「いるよ。三歳年上の兄さんがね。ただ、ちょっと存在感が薄いんだ」

 温かな腕の中で、じっくりと朔の顔を観察した。
 華やかな顔立ちは、彼の祖父や父、母親からのいいとこどりだ。そんな一族の中で存在感が薄いなんて言われても、まったくもって信じられない。




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