記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「ヒナ? 大きな声出してどうしたの?」
そっと声のした方に顔を向ければ、開いた扉に寄り掛かった朔が、きっちりと服を着込んで雪乃を見ていた。
「さ、朔っ……なんでも、ない」
「そう? 俺にはそうは見えないけど? むしろ、どうしようか悩んでいるように見えるけど?」
何も履いていない足が床を歩く音が聞こえてきて、枕の近くに片手をついた朔が目を合わせようとしない雪乃の髪に触れるだけのキスを落とす。
「朝からセックスをしたくないなら、はやくシャワーを浴びておいで。キッチンで朝食の用意してるから」
足音が遠ざかって行くのを確認してから、のっそりと起き上がりベッドから出て上掛けを体に巻付けると、洋服ダンスへと忍び寄った。
正しくは、駆け寄りたかったけど、下半身の違和感が消えていなくて忍び足になってしまったのだ。
下着一式とジーンズ、トレーナーを手に、部屋を出てすぐのバスルームに急ぐ。
キッチンからは、何かを炒めているような音がしている。これまで、朔が料理をしている所を見たことがなく、少し興味を引かれたがまずは一人きりで考える時間が必要だった。
上掛けを床に滑り落とし、浴室に入ったところで、雪乃はほっと息を吐き出した。
シャワーを出して、お湯になるまで待っている間も、頭の中では予期しなかった展開に混乱している。
一夜明けてみたら、とにかく恥ずかしさしかなく、どんな気持ちで顔を合わせればいいのかさえ分からない。
水からお湯に変わり、シャワーの下に入り浴びるとようやく力を抜いた。
手早く髪を洗い、泡立てたスポンジで体も洗い、すっきりとした気分でシャワーで流したところで、目の前の鏡が気になって目を向けると、ぎょっとしてしまった。
鏡に映った体には、赤い印が散りばめられていた。
胸元は特に多く、その印は腹部や太ももにまで及んでいる。
かっ、と頬に熱が上がり、雪乃は目を反らして浴室を出て、棚に置いてあるタオルで体を拭った。