記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
彼女が口を閉じて向けた視線を追えば、周りにきゃあきゃあ言われながら歩いて来る男がいた。
「雪乃……あたしは席外すね」
「ちょっと、香穂!」
ワイングラスを手に、香穂はそそくさと離れていってしまった。代わりに、隣の席に男が座った。
「悪いけど、朝日奈さんと二人きりにしてくれるかな」
「ええ~、また戻ってきてね」
「すぐに終わるから、向こうで食事を楽しんでおいでよ。オレが持ってきたのがあるから」
その言葉に、納得のいっていなかった子たちが離れていく。すると、急激に静けさを感じた。
隣の席に目を向けると、男はグラスに一つ氷を入れるとウイスキーを注いで口をつける。
その仕草は、まるでドラマのワンシーンを見ているような錯覚さえ起こさせる雰囲気がある。
雪乃は、自分のオレンジジュースを一口飲んでから口を開いた。
「人気俳優、向島宏介が来てるなんてね」
「もう俳優になって十年ですよ。同窓会に出たくらいで騒ぐ記者もいないでしょ」
向島宏介はドラマや映画に引っ張りだこの人気俳優。学生時代は生徒会長をするほど品行方正で、統率力と説得力、人を引き寄せる魅力を兼ね備えた男だった。それだけではなく、高身長で整った顔立ちという彼は悪い意味ではなく、何かと校内を騒がせていた。