記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「ま、人気を得ることが出来たのは、朝日奈のおかげだけどね。鳴かず飛ばずだった僕が、注目されたのは君の小説の実写化がきっかけだし」
「いえいえ、こっちはこっちで売上を伸ばして頂いて感謝してますよ」
雪乃のティーン向けの吸血鬼小説は十代の人気を得て、実写映画化された。通るか分からないが、登場人物のキャスティングは誰がいいかと聞かれ、芸能人名鑑を眺めている時に向島の写真を見つけた。
かつて文化祭の劇で演じている姿が浮かび、主人公が恋をする吸血鬼にぴったりだと思い候補に上げた。
そして、オーディションの末に、彼が選ばれたのだ。
たしかにきっかけを与えたのは雪乃かもしれないが、チャンスをモノにしたのは向島の実力である。
「そういや、今のシリーズものは映画化の話しとかないんですか?」
「うーん、ないはね。どうして?」
「そろそろ、もうワンステップ上がりたいなと思いまして。あのシリーズには官能的なシーンもあるから、新たな自分を見せられそうだなと思うんですよ」
「あははは、最近は演技派俳優って言われてる男が何言ってんだか。CMにだって引っ張りだこのくせに。昨日から放送の始まった炭酸のCMだって、すごい反響だってネットニュースに書かれてたし」
「そうは言いますけど、次々と新人が出てくる世界ですよ? いつ飽きられるかと思ったら」
自虐的に笑う向島を慰めるべく肩を叩いていると、バーの中が騒がしくなった。