記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!





「ヒナ?」


 片方の手で、もう片方の腕を掴んで体ごと引いた拒絶の動作に、朔の顔が曇った。

 眉を寄せて、雪乃以上に驚き、傷ついた表情をする彼に、くすぶっている記憶が触れて撫でて慰めたがっている。 


「どうかしたか、雪」


 もう一歩下がったところで、卓馬の胸にぶつかった。両肩に手が乗せられて、これ以上下がれないことに胸の奥でパニックが沸き上がる。

 
 逃げたい、逃げたい、逃げたい。


 対処しきれない感情で、喉が詰まったように感じて息がしづらい。心臓の鼓動が、どんどん速くなって胸が苦しくなってくる。

 別に泣きたくもないのに、生理的な涙が目に浮かびはじめた。

 
(もう嫌だ! 私の平穏を乱さないでよ!)


 心の中でそう叫んだ瞬間、目の前が真っ暗になった。



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