記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
沈黙に耐えられないってこともなければ、何か話さなくちゃという焦りを感じることもない。
雪乃にとって、家族以外に頼るべき安息の地である。
先に食べ終わった卓馬が食器を洗いに立つと、雪乃も自分の食器を持って立ち上がった。
自然と彼が洗い、彼女が食器を拭くという役割分担が出来ていて、今日も同じようにキッチンに並んだ。
手際よく洗い物を済ませると、いつもなら二人並んで座ってリラックスタイムになるのだが、口を開いたのは雪乃だった。
「ねえ……卓馬は、朔が帰ってくるの知ってたの?」
そう切り出すと、食器を上の棚にしまっていた手を止めた。
「ああ。一ヶ月前くらいに、あいつから電話があった」
「ずっとやり取りしてたの?」
「んなわけあるかよ。店にかかってきたんだ。前に一度、雑誌の取材受けたことあるだろ? あれを見てかけてきたらしい」
「そうなんだ」
温かいお茶の用意をしながら聞いていると、隣から深いため息が聞こえてきた。
「って、一昨日の夜にも説明しただろ。覚えてないのか?」
「そ、そうだった?」
「まあ、あの日は酷く酔ってたからな。しかも、話聞いた後はさらにピッチが上がってたし」
言えなかった。酔ってよく分からないうちに、朔と一線を越えただなんて。
「そういや、あの日は一人で帰れたのか?」