記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
心臓が一気に早鐘を打った。
どう説明すべきか分からず俯いてしまうと、タイミングよくドアベルが鳴った。
「そういや、朝から引っ越し業者が来てたな。向かいの部屋に、誰か越して来てたから挨拶にでも来たのかもな」
応対しようと動いた卓馬だったが、タイミングよく彼のスマートフォンが着信を告げた。
「電話、出ちゃいなよ。対応には私が出るから」
「悪いが、頼む」
カウンターの上に置いてあるいまだに鳴りつづけているスマートフォンを手にすると、自室へと入って扉を閉めた。
少しだけ、雪乃はほっとした。
あの日、何があったのかは自分でも分からないのだから、卓馬にも香穂にも知られたくない。
あまり人の対応が得意ではないが、仕方がないと玄関に歩いていくと横の鏡で軽く身だしなみを整えてから扉を開けた。
「すみません。お待たせしました」
「いえ、こちらこそすみません。朝のお忙しい時間に」
妙な沈黙に顔を上げて、絶句した。