記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!




 背中をもわっとする高い湿度を含んだ空気が覆い、最悪のタイミングで相手が出て来たことを告げている。
 

「どこに行く?」


 低く耳元で囁かれると、背中の中心を甘い痺れが駆け登った。

 咄嗟に答えられずにいると、手首を掴まれて部屋の奥に連れ戻された。目の前を歩く背中は広く、雪乃が見上げないといけないほど背が高い。

 そこで、はっとした。

 先を歩く男は、ジーンズだけを穿いており上半身裸だ。

 歩く度に、背中の筋肉が動くのが見える。

 雪乃の頬に、一気に熱が集まった。

 ようやく離された手に、足を止めて顔を見ると、相手の眉間にシワが刻まれていた。端正な顔を損なうものではないが、整っているだけに少し迫力がある。

 
「なんだよ、これ。俺は、男娼か?」


 一瞬、何を言われているのか分からなかったが、彼の視線の先にお金を置いたテーブルがあるのに気がついて、雪乃は慌てて口を開いた。
 

「ち、違います! ここの部屋代の足しにしてもらおうと思って置いただけで……」


 決して、彼に金額をつけた訳じゃない。


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