記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
どうせ、弱虫だった朔が何か言い返せるはずがないと思って言った言葉だったけど、足早に近づいて来る足音に、雪乃は驚いて反応出来なかった。
バンッ!
カウンターに手をついた彼は、ぐっと乗り出してきた。その瞳は、怒りに燃えている。
「ねえ、ヒナは……俺を手の平で転がして楽しんでるの?」
見たこともない目の強さに、雪乃は動けなくなってしまった。
こんな朔を、私は知らない。
混乱していると、頭を下げてきた朔の額と雪乃の額が触れ合った。
「それって作戦? 俺がヒナを忘れないようにする。十年前に手紙を返してくれなかったのも作戦だとしたら、成功だよ。俺はずっと……ヒナの事を考えていたんだから」
「えっ?」
『手紙』という言葉に、眉間にシワを寄せた。貰った覚えなんて一度もない。
「イギリスに行った後、それこそ毎日ヒナに手紙を書いて送ったじゃないか。いつも返事を楽しみにしていたのに、君から一度も返事はもらえなかったけど、君は怒っているんだろうな何も言わずに行ったことを……そう思って、出すだけで満足していた。それなのに、俺の心は届かなかった?」
体を離した朔は、前髪に片手をさしいれた。邪魔な髪から覗いた顔には、悲しみが広がっていた。
「違う……」
『手紙』なんて貰っていないと言おうとしたのに、朔は片手を上げて制した。