記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
一つ仕事が減ったことだし、早めの朝食を摂ろうと冷蔵庫を開けると、すかさず卓馬に釘を刺された。
「朝食の材料は昨日ので最後だ。食べるなら、朔にカフェに連れていってもらえよ」
「ちょっとそれは」
気まずい。その言葉に尽きる。
昨夜の様子から見て、何もなかったかのように顔を突き合わせて食事が出来るわけがない。
そんなメンタルの強さを、雪乃は持ち合わせていないのだから。
返事に困って適当にパントリーを漁るが、コンフレークもホットケーキミックスもない。
「一食抜いたくらいで、死にはしないと思う。夕食には親も帰ってくるし」
「ダメだ。それと言いにくいんだが……こっちは大雪で飛行機も飛んでない。お前の両親から連絡なかったか?」
「えっ! メールすらないけど!」
なんでそんな大事なことすら連絡しないのかと、苛立ちよりも呆れてしまう。
「多分、一日か二日は無理だろな。宿泊の手配は追加でしてあるから、心配しなくてもいい」
北海道旅行が夢だった両親が泊まっているのは、今卓馬が行っているホテルだ。なかなか予約が取れないのだが、彼に頼んで部屋を確保してもらった。
タイミング良く卓馬が居てくれて、甘えていると思われるかもしれないが、ほっとしている。
「いつもありがとう」
「気にするな。オレが好きでやってるんだ。それじゃあ、きちんと食事は摂るんだぞ? そろそろ、届くだろうから」
「は? 何が」
可笑しそうな卓馬の笑い声と軽い別れの挨拶を交わすと、玄関のチャイムが鳴った。『届く』という言葉に嫌な予感を覚えながら、扉を開くと予感は的中した。