記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「おはよう、ヒナ。走ってたら卓馬から朝食がないって連絡があったから、途中のベーカリーに寄ったんだ」
手渡されたのは、マンションのすぐ近くにある通勤客のために平日は早朝から店を開けているベーカリーの紙袋だった。
重さと温かさから、出来立てのパンが入っているのが分かる。
朔の手にも同じものがあるが、彼は「それじゃあ」と言って、自宅の方へと足を向けてしまう。
その背中は、少し寂しそうに見えた。
「あの……朔っ」
気がつけば、雪乃は呼び止めていた。
「あのさ、よかったら一緒に食べない?」
雪乃の発言がよほど意外だったのか、ランニングウェアに身を包み、まさに日課ですというように腕にスマートフォンを装着した朔は驚いた顔をしている。
「あと、ありがと……買ってきてくれて」
自分でも思いがけない行動に戸惑いながら俯くと、朔の分の紙袋が渡された。