記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!




 エレベーターが止まるたびに、少しづつ人が降りていき、少しづつ呼吸がしやすくなってきた。

 朔の車が停まっている地下に近づく頃には、エレベーターの中には朔と雪乃の二人だけ。

 彼の背中が離れて行くのに合わせて顔を上げると、反対側の壁に背中をつけた朔が雪乃を見つめてくる。

 姿は変わっても、その目の強さだけは変わらない。
 昔からこの目が好きだった。
 澄んでいて、真っ直ぐで、強い意思を秘めた瞳。

 二人の関係は、案外あっさりと修復出来るんじゃないかと思いそうになった時、エレベーターは地下駐車場に辿り着いたのを告げた。

 はっとして、小さく咳ばらいをしてから開いた扉から外に出た。

「ヒナ……まだ時間もあることだし、昼でも食べに行く?」

「そうね。お腹は少し空いてきたかも」

 けれど、さっきの後では朔と店に入るのが良い考えだとは思えなくて、雪乃は返事に困ってしまった。

 ランチ時で混み合っているレストランに入れば、自ずと朔は女性の視線を集めるだろう。そうすれば、自然と雪乃も値踏みされる。

 楽しい食事になるとは思えず、断ろうと口を開こうとしたら、彼が先に口を開いた。
 
「レストランは、俺に任せてもらってもいいかな?」

「えっ?」

「大丈夫だよ。落ち着ける場所だから」

 そう言われては断ることも出来ず、雪乃は小さく頷いた。


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