記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
ほっと笑みを零した朔は、雪乃を助手席に座らせると、弾む足取りで車の前を回って運転席に乗り込むと、上機嫌でエンジンをかけた。
滑らかに車を走らせ、地下駐車場から地上に出る。
改めて視線を向ければ、正面を見据え運転に集中している横顔が目に入った。
マイペースで、運動音痴で、怖がりだった姿はどこにもない。
今まで、思い返したことがないとは言わないが、雪乃の中の朔はいつまでも後ろをついて歩く大人しい男のままだった。
卓馬を見ていれば分かるが、男性の成長というものは幼い少年を頼もしい大人の男へと変える。
それでも、朔がこんな男に成長するとは一度も考えたことはなかった。
運転免許を取ることも、主導権を握ることもーー。
「どうしたの、ヒナ。俺と二人は不安?」
「ううん、違う。ただ、外車に乗る印象がなかったから不思議で」
「なら、俺は何に乗りそうな印象?」
「うーん……軽自動車とか?」
「ふはっ! 俺ってそんなイメージなんだ」
「笑わなくてもいいでしょ。じゃあ、どうしてこの車にしたの?」
「ヒナのためだよ」
そんな答えがかえってくるとは思っていなかった雪乃は、言葉を失った。
じっと見つめていると、赤信号で車を停めた朔が顔を向けてきた。