記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!



「だとしたら、どうだって言うの?」

「……親父をぶん殴りに行きたいね」

 そう口にいた朔の微笑んだ顔は、美しく、そして危険なほど冷たいものだった。
 張り詰めた空気の中、スマートフォンのバイブ音が嫌に大きく聞こえた。

 でも正直、今の雪乃にはありがたい。
 鞄からスマートフォンを取り出し画面を見ると、香穂からメールが入っていた。

「どうした?」

「香穂からメールがきたみたいで……えっ!」

 メールを開いた雪乃は、無意識に大きな声を出していた。

「彼女は何て?」

「……子供が熱出したって旦那さんから連絡があったみたいで、早めの便に変更してもう乗るところだって」

「それじゃあ、間に合うわけないな」

「それについては、メールで謝ってる。だから、気にしないでって返しとく」

「仕方ないさ、離れた地にいて、子供が熱出したって連絡がきて気にしない親はいないだろ」

「う、うん。そうだよね」

 食事に戻った朔から目を反らし、スマートフォンの画面に目を戻し、彼に気付かれないようにため息を吐いた。
 香穂からのメールの文章の中身は、早めの帰国と謝罪だけではなかった。



< 76 / 176 >

この作品をシェア

pagetop