記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
料理を終えた雪乃は、ずっと立ち仕事をしていた疲れからソファーでまどろんでいた。
そんな彼女の耳に、チャイムの音が聞こえてくる。
何か聞こえる気がするとしかぼんやりとした頭では考えられず、ようやく目が覚めたのは二度目のチャイムが鳴った時だった。
「ヤバッ!」
慌てて起き上がり壁掛け時計に目を向けると、時刻は午後八時五十九分を指し示していた。
玄関に急ぎ、鍵を開けて扉を開くと、目の前には困り顔でスマートフォンを耳に当てる朔の姿があった。
「よかった。チャイムを鳴らしても出てくれないから、やっぱり一緒に食事をしたくなくて姿を消したのかと思ったよ」
雪乃の顔を見ると、ほっとした表情を浮かべて電話を下ろした。
敵前逃亡したのかもしれないと遠回しに言われているのに、いつもなら噛み付いているはずの雪乃はただただ朔を見つめていた。
そうなってしまったのも仕方がない。
目の前にいる彼の姿は、これまでとは違うかっちりとした濃いグレーのスリーピーススーツに身を包んだ姿をしている。背が高く、程よく筋肉のついた朔は、まるで雑誌から飛び出してきたように輝いていた。
卓馬のスーツ姿で見慣れているはずなのに、朔が身に纏うと全く別ものだ。
それもそのはず、卓馬のスーツ姿は成人式の時から見慣れたものであり、そのワンクッションが朔にはない。
人によって、こうまで違うとは今まで思いもしなかった。
「ヒナ? 大丈夫?」
少し屈み込んで雪乃の顔を覗き込んできた朔に、はっとして扉を開いたまま半歩下がった。