記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。アルコールはどうする?」
「やめとく。飲みたければ、朔は飲んだらいいし」
「俺もいいよ。じゃあ、烏龍茶を持っていっておくね」
冷蔵庫に朔が移動したことで、背中から熱が離れていって雪乃は知らずに止めていた息を吐き出した。
これまでの知らない相手に対する時の緊張や動悸とは違う。
朔に対するのは、忘れていた感情を思い出させる恥ずかしさからくるものだ。
今までの自分を取り戻すべく深呼吸を繰り返していると、電子レンジが鳴った。取り出した皿をダイニングテーブルに運び戻ると、今度はオーブンがグラタンの焼き上がりを告げた。
持ち込んだミトンで耐熱皿を取り出し、木製の鍋敷きに乗せて運んだところで、パントリーケースを部屋に置いてきたのに気がついた。
「フォークとかナイフを置いてきたから少し待っててくれる?」
「いや、わざわざ取りに行くことないよ。家にもあるから」
椅子から立ち上がった朔は、慣れた様子で引き出しからナイフとフォークを持ってきてくれた。
一人暮らしの男の部屋に、二人分のセットがあるということは、少し女性の影を感じてしまう。
もしかしたら、同棲していたこともあるんじゃないかと心の片隅で思ってしまったからか、さっきまでの感情は冷えて冷静に考えられるようになった。