記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「じゃあ、食べようか」
ナイフとフォークを受け取り、朔の向かい側に座る。
「「いただきます」」
チャイムが鳴る十分ほど前に焼けたばかりだったコーンパンは、まだほんのりと温かい。
ちぎりながら口に運び、上手くできていることに胸を撫で下ろした。
「全部、ヒナが一人で作ったの?」
「そりゃもちろん。当たり前でしょが。他に誰と作るのよ。香穂はカナダだし、卓馬は北海道でしょ」
「いや……あの担当の男でも呼んだのかと」
気まずそうにパンを口にする朔は目を泳がせている。
和人の名前すら口にしたくない様子に、数日前とは違い雪乃の心には苛立ちではなく微笑ましさが沸き上がってきた。
「まさか。和人くんは卓馬のマンションの場所は知らないし、さすがに勝手に誰かを上げたりしないよ。朔だって知ってるでしょ? 卓馬の縄張り意識の強さ」
懐に入れた相手に対しては優しい彼だが、初対面や信用できない相手に対してはかなり高圧的な態度をとる時もある。
一度、雪乃の自宅で和人とかち合った時には、かなりの不機嫌オーラを放ち、質問というなら可愛いが誰がどう見ても尋問に思える威圧感で話し始めたほどだ。
「ってことは、卓馬にとってヒナは特別ってことだろ? ライバルは結局……卓馬か。それって手強すぎる」
ハンバーグを頬張りながら、深いシワを刻む朔に雪乃は小さく笑った。
こうして見ると、全く彼が変わっていないことに気がついた。もちろん、男らしくなった点は別だが、今でも表情の意味が分かることが嬉しくなってくる。