記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「怒ってるの? さっき勝手に電話切ったこと……ごめん。あれは、卓馬と楽しそうに話してたから、イラついて」
さっきのことについて怒ってるつもりのない雪乃だったが、勘違いをしているのなら少し意地悪をしてやろうと無言で足を一歩進ませて腕を引くと、さらに掴む手に力を込められた。
「ヒナ……お願いだから行かないで」
声には悲壮感が漂っており、後ろを振り返って顔を見てみたい好奇心を抑えるのに雪乃は苦労した。
「二度としないから……ちょっと、ヒナ?」
我慢の限界がきて、片手で口を押さえながら肩を揺らしてしまうと、パッと手を離された。
「ごめんごめん。本気で焦ってるから面白くて」
「酷くない? こっちは必死なのに」
廊下の壁に手をついて笑うと、言葉とは裏腹に朔はガバッと抱き着いてきて雪乃の体を左右に振った。
それは、小さな頃に雪乃が朔にからかわれた時にやっていた行動と同じだ。
懐かしさと、朔の成長に可笑しくなって笑い声をあげると、朔も一緒になって笑い出した。
「じゃあ、どうして玄関の方に行こうとしてたの?」
「コーヒーとか紅茶がどこに入ってるか分からなかったから、卓馬の家から持ってこようかと思って」
「好きに棚を開けたらいいのに」
「いや、普通は他人の家の棚を漁るなんてしないでしょ」
「他人の家ね……おいで、こっちにあるよ」
抱きしめられていた腕は外れたが、今度は手を繋がれて引っ張られた。
今更ながら、目の前に広がる広い生身の背中に、上半身に何も身につけていないことに気がついて俯いた。これもまた、あの失態の日を思い出させるものだ。
手を引かれるままキッチンに戻ると、作業台の上にある扉を開いて木の箱を取り出すと、見える場所に置いてくれる。
「コーヒー、紅茶、ココア、緑茶なんかはここに入ってるよ」
「あ、うん。ありがと……覚えとく」
振り返られたが、子供時代に見た体つきとは違う鍛えられた体を直視することが出来ず、木箱に視線を固定したまま答えると、ふっと影が落ちた。