記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「ねえ、ヒナ。こっちを見て……言っておきたいことがあるんだ」
「言えばいいでしょ。ちゃんと聞いてるし」
「いやだ。ちゃんと顔を見て言いたい」
木箱を掴んだ朔は、自分の方へと引き寄せ、雪乃が顔を上げる以外の選択肢がないようにした。
「ヒナ? 俺を見て」
どうしようもなくなって、雪乃は真っ赤になった顔を上げると視線を顔に固定するように努力した。
「あっちで聞くから……とりあえず何か着てくれる」
「あ、ごめん」
一歩引いた朔は、慌てたように雪乃の横を通ってバスルームへと走って行った。へなへなと座り込みそうになるのを堪えてリビングに行ってから、力無くソファーに座った。
たいした時間もかからず戻ってきた朔は、雪乃が座る前の床に座りそっと手を取り見上げてくる。
見慣れてきた真剣な灰色の目で見つめられ、彼が言いたいことが真面目なものだと伺えた。
口を開くのを待っている間、冬だというのに喉がカラカラに渇いてきた。
「ねえ、ヒナ。俺はこれからヒナと、十年分の距離を縮めたい」
「ちょっと……それくらいのことで大袈裟過ぎない? 別に、わざわざ言葉にしなくたって、私たち友達でしょ?」
十年前、雪乃はたしかに朔に腹を立てていたが、留学が仕方のないことだったと知った今ではそんな気持ちも霧散した。
人間、十年もあれば色々と起こるものだ。
雪乃は過去に縛られる気も、責めようもないことでウジウジと文句を言う気もない。
消えない友情と想いがある以上、前みたい拒絶する理由はない。
ただ困ったのは、雪乃自身は朔に友達以上の感情を抱いてしまったということだ。
だが、朔が友達として付き合いたいと言うのならそれに合わせることは出来る。学生時代と違って、社会人にもなれば毎日顔を合わせる訳でも、同じ職場でもない。
卓馬の家に来ないようにして、自分のコテージで過ごすようにすれば、それこそ会うのは正月くらいで済む。
そんなことを考えていると、雪乃の耳に大きなため息が届いた。