記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
気まずい訳ではないが、卓馬の時とは違う何か話しをしなくちゃという思いが浮かんできたが、話し下手で興味のあることが偏り過ぎていてなかなか口を開くことができない。
話しのネタという小さなことに頭を悩ませていると、代わりに朔が話しを振ってくれた。
「そういえば、ヒナってどこに留学してたんだっけ」
「アメリカのアイダホ州だけど?」
「その頃の話を聞きたいな」
雪乃はシナモンロールの最後の固まりをゆっくりと咀嚼しながら考え、残り一口のコーヒーで流し込んだ。
それからゆっくりと整理しながら話して聞かせた。
高校の短期留学で訪れたホストファミリーのこと。
自然豊かな場所で、何を感じ考えたかということなんかをたどたどしく話す間、朔は急かすこともせず追体験するように聞いてくれた。
「そこの同い年のエミリーに進められて読んだのが、私の今の人生に影響を与えたの。吸血鬼のラブロマンスで、切なくて二人でわんわん泣いたな」
「ホームシックとかにはならなかったの?」
「不思議となかったの。それくらい温かい家族だった。あとエミリーのお兄さんで大学生のジェイクが、夏休みにイエローストーン国立公園に連れていってくれたり、オオカミの群れのつくりとか、行動について詳しく教えてくれたな」
そこから、すっかりオオカミの虜になってしまった雪乃の部屋には、海外でしか手に入らないオオカミグッズで溢れている。特にお気に入りなのは、オオカミの遠吠えをおさめたCDだ。
海外旅行が趣味の母親の友人に頼んで買ってきてもらうこともある。
「今では有名なオオカミの行動学者なんだよ? ほら」
スマートフォンに保存しているオオカミとジェイクと撮った写真を開いて、朔に画面を向けて差し出した。