最初で最後の恋だから。ーセンセイー
雨の日のお昼は屋上に続く階段で一人で食べている。

屋上は鍵が閉まっていて入れないからここに来る人は滅多にいない。

お弁当を食べ終えてもお昼時間は残っていた。

雨音をBGMに私は読書を始めた。

本を読み進めてしばらくすると誰かの足音がした。

「こんな所であんたに会うなんてね。」

「水沢さん。」

水沢あかりは私の数段下に腰を下ろした。

鞄からペットボトルを取り出して飲み干すと私の方に向き直る。

「あれからどうなったの。」

「もう何もないよ。」

「・・・あんたはさ、勇気の事酷いヤツだって思ってるだろうけど。
勇気は本当は優しいんだ。」

優しいという言葉とアイツは私の中では対極にいる。

「信じられないよ。
あんな風に人を傷つけてきたのに。」

「あんたは転校してきたから。
あんな風になる前の勇気を知らないからそんな風に言えるんだよ。」

どんな事情があるにせよ、許せる気はしなかった。

「勇気はね、元々いじめられっ子だったんだ。」

「え・・・。」

「昔は身長が低くて女の子みたいだったからそれをネタにからかうヤツがいて。
段々エスカレートしていって・・・酷かったんだ。
親に打ち明けたら、それが元で不和に繋がって、勇気の両親は離婚しちゃって。」

あかりは自分の事のように辛そうな顔をしている。

「自分のせいでって勇気は自分を責めてた。
しばらく学校を休んでて、出てきたその日にいじめっ子のリーダーだったヤツを殴った。
それで、今度は勇気がいじめのリーダーに祭り上げられたんだ。」

「・・・。」

「あんたには勇気の気持ちが解るんじゃないの?」

苛められるのはとても辛い。

自分のせいで大切な人を失ったなら尚更だろう。

もし同じ立場だったなら私はどうしただろうか。

「傷ついたからって人を傷つけても痛みは消えないよ。」

「そうだろうね。」

「どうして、私に話したの?」

「勇気が」

チャイムが鳴った。

「行きなよ、授業が始まる。」

言いかけた言葉を消してあかりは教室へ行くよう促した。

「水沢さんは?」

「サボリ。」

水沢あかりは壁にもたれて目を閉じてしまった。

私は複雑な想いを抱えたまま私は教室に向かった。
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