最初で最後の恋だから。ーセンセイー
「柚依、起きなさい。」

声を掛けられて目が覚めると時計は7時を指している。

「ごめんなさい、お母さん。
ご飯、いらない。」

私は身支度を整えて家を飛び出した。

外は雨が降っている。

バス停まで走ると制服のスカートの裾が雨を吸って重くなった。

到着したばかりのバスに乗り込むと古賀君の姿が見えた。

「寝坊か?」

「うん・・・昨日眠れなくて。」

「眠れなかった原因当ててみようか。
伊藤の事だろ?」

「なんで解るの?」

「顔に書いてある。」

「そんなに私って解りやすい?」

「と言うよりは俺には解るって言った方がきっと正しい。」

「・・・。」

「恋愛相談してみるか?」

「伊藤先生の彼女ってどんな人なのかな。」

「伊藤って彼女いるのか?」

「はっきりと聞いた訳じゃないけど。」

私は星形の灰皿の事を古賀君に話した。

「もしいたとして柚依は諦めるのか?」

「それは・・・。」

古賀君は私の心を見透かして言葉の続きを言った。

「無理なんだろ。」

「うん。」

「だったらそんな顔するな。
・・・笑ってあいつのとこ行けよ。」

バスが学校に着くと私は古賀君と別れた。

傘を差して校門までの距離を歩く。

校門には数人の先生が立っているのが見えた。

その中に伊藤先生がいる。

「遅刻するぞ。」

校門を通り過ぎる時、伊藤先生が私に笑って声を掛けてきた。

作り笑顔を返して傘で顔を隠して走った。

どうして、私は生徒なんだろう。

どうして、先生と生徒として出会ったんだろう。

先生。

好きだけど、好きだから、苦しいです。
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