徹生の部屋
天井が低く圧迫感のある室内は、徹生さんが最初に言っていたように倉庫代わりになっているらしい。
通常使いではない食器や日用品のストックなどで、壁面に造り付けられた棚は埋まっていた。

とはいえ、桜王寺家の持ち物だ。中身は銘々皿らしき木箱の達筆な箱書きをちらりとみれば、手に取ろうなどという気も減少する。

またよろけて、棚のものを落っことさないうちに退散を決めこんだ。

「あとは上か」

階段ホールまで戻ってきて徹生さんは視線を上げる。つられて見上げれば、ホール上の天井でシャンデリアのクリスタルがキラキラと輝いていた。

「ホント、お城みたいですね」

社員寮どころか、九州の築20年の実家と比べても別世界。こんな建物で普通に生活を送っている人たちがいるなんて。

「住んでみたい?」

「そうですね、数日間だったら。ずっとは掃除や維持費が大変そう。あのシャンデリアだって、埃がたまりやすそうって考えちゃいます」

「夢見がちかと思えば、意外と現実的なんだな」

このお屋敷の住人である徹生さんは、愉快そうに眦を下げた。

「もちろん、素敵な家具や広いお家には憧れますけど。でも、住む人にとって居心地が好いのが一番なんです。外から帰ってきたときにホッとする、そんな部屋を創るお手伝いをするのが、私の仕事だと思っています」

「ああ、その考えは当社も同じだ」

彼もまた、ハウスメーカーの社員として、提供する商品にプライドがあるのだろう。
得意げな笑みが深まる。

「では引き続き、我が城を案内しよう。お手をどうぞ、姫」

王子さまのように芝居がかった仕草で手を延べてきた。それが様になるって、どういうことなの!?

果たして自分の手を乗せてもいいものなのかと躊躇っていると、痺れを切らしたのかあっちから掴まれてしまった。

思ったよりもずっと大きくて暖かい手に、私の意識が集中する。
途端、まるで掌に心臓が移動したのかと感じるほど、ドキドキと脈が主張を始めた。










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