徹生の部屋
大きな大きなベッドのベッドメイキングを、ひとりで行うのはひと苦労。
だけど、パリッと糊を効かせた洗いたてのシーツを敷いたシルマー社製のマットレスで眠ると、立ち仕事の疲れも翌朝にはスッキリと取れている。

くっきりと現れた木目が美しい、国産のタモ材を使用したベッドフレームとお揃いのナイトテーブル。特殊なサイズに合わせたマットレスからカバー類に至るまで、すべてがオーダーメイドだ。
発注してから、全部の品が揃うまでにはずいぶんと日にちを要した。

なにもかもが揃っているこの家に、ほぼ身一つで転がり込むような形になった私のために、徹生さんが新調してくれたベッド。

素材も色も、彼と私とで一から選んだもの。

密に織られた滑らかなコットン生地を手の甲で撫でる。何度も、何度でも飽きることはない。

「どう捉えても、誘われているようにしか見えない」

お風呂上がりの熱と香りをまとった徹生さんに、私自身がくるまれた。

洗いっぱなしの髪をさらりと退けて、露わになった首筋に食いつくようなキスが散らされる。

「やだ。ダメ! そんなとこ、止めて」

「明日は休みなんだろう? 構わないじゃないか」

せっかく整えたベッドに私を仰向けに押し倒し、不敵に微笑む。

「買い物くらいには出かけるし。それに、徹生さんは仕事じゃない!」

「マフラーでも巻いておけばわからない。今日は一日留守番をしていたんだ。ご褒美ぐらいもらっても、罰は当たらないと思うが?」

無駄な抵抗と知りつつ渋る私を言い包めながら、彼の右手はパジャマのボタンを、焦らすようにひとつずつ外していく。

晒された肌がヒヤッと感じたのはほんの一瞬だけ。

形をなぞるように身体中を這う大きな手と、内側から舐め尽くすみたいな口づけで、瞬く間に暖房など必要がなくなるくらいに火照っていく。

強引なようでいて繊細な指先の動きに翻弄され、ときには甘噛みされた耳にイジワルで甘い言葉を囁かれ。
彼に満たされた心と身体に、よそ見をする余裕など一瞬たりとも与えられずに愛情を注ぎ込まれる。

身に余るほどの幸せすぎる日々は、不意に夢のように目覚めてしまうのではないか。
怖くなって徹生さんの首に腕を絡ませれば、心地好い重みと体温が、これは現実だと教えてくれる。

だから、安心して彼から与えられる甘露な夜に酔いしれることができた。
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