徹生の部屋
私の髪をひと束すくい上げてキスをする。

「この髪も」

そして、右手の指先に。

「この手も。楓のすべてが俺を惑わせているのだと、もっと……もっと自覚しろ」

キスはひとつずつ丁寧に、少しずつ腕を伝い、やがて唇へと辿り着く。再び与えられた口づけは、息をさせてもらう暇もないほど狂おしいもので。

「あの五日間、俺が何回楓を欲しいと思うのを我慢させられたことか。こうしていま、この腕の中にいることが夢のようだと思っているか。信じられないというなら、わかるまで教えてやる。何度でも、いくらでも」

今度こそ、本当に息が止まってしまうくらい強く抱きしめられた。

「よく覚えておけ。楓の帰る場所はここだ。だから、俺から離れることは許さない、といったらイヤか?」

強引で尊大な物言いに、思わずクスリと笑ってしまうと、ムッとしたように彼は腕の力を強める。

「だって。『離さない』じゃないから」

「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」

強引だけど忍耐強くて、俺様なのに気配りできて。御曹司なのにどこか庶民じみた、私の素敵な王子さま。

そして、もうすぐダンナさま。

私だけがもっている、あなたを想う誰にも負けない気持ちを受け取って!



 ―― 完 ――



最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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どうぞ個性豊かな素敵な作品をお楽しみください!
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