徹生の部屋
「友だちというより、俺の場合はきょうだいみたいなもんだったな。親戚も同然の付き合いをしていたし、手間のかかる妹……なんだ、信じられないのか?」

そんなに表情に出ていたのだろうか。布団を頭までかぶって、嫌な自分を覆い隠す。

「楓?」

呼ばれたって、顔を出すことなんてできなかった。

「じゃあ訂正しよう。きょうだいじゃなくて同士だ。互いに背負わされるものがあり、成果を求められる立場にあるという戦友。――それでは納得できないか?」

布団が大きくめくられて、隠れる場所を奪われる。顔を隠そうとした両手は剥がされ、ベッドに縫い止められた。

「男と女の間には恋愛感情しか成立しない、とでも?」

咎めるように問われ、息が止まる。違う。そうじゃない。

「ごめ……ごめんなさい」

「謝って欲しいのではない。信じてもらいたいだけだ」

違う、と何度も声を絞り出して否定する。信じられないのは、自分自身。

徹生さんはたくさんのものをもっていて、抱えきれないほどのものを私に与えてくれる。なのに、私があなたにあげらるものはあるのだろうか。

そんな自分が、こんなにも愛されていることが信じられなくて、不安なだけ。

「……なんで。なんで私なの?」

いままで怖くて聞けなかったことを問い質すと、私の上で彼の瞳が彷徨うのが見えた。
徹生さんから解放された私の手はただ空を掴む。

「なんで、か。そうだな、どうしてだろう」

泣きたくなった私より、くしゃりと顔を歪ませた。

「たとえば。見た目に反した呑みっぷり。あとは、饅頭のヒヨコを可哀想というところ。そのくせ鳩はバラバラにする剛胆さ」

彼の口元が、ふっと和らぐ。

「家や家具に対しての呆れるほどの情熱と好奇心。バカ正直すぎる責任感。寂しがり屋なくせに意地っ張りで――だけどそれを、俺だけにみせてくれた」

甘い声音と、寝乱れた髪を梳く手がくすぐったい。

「せっかくのチャンスをぶち壊したクシャミも、人の気も知らず無防備に眠る姿も。いつの間にか、楓の全部が気になって、愛おしいと感じるようになっていたのはどうしてなのか。その理由は俺にもわからない」












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