黒の村娘といにしえの赤鬼
「…もし珠々が村に来るようなことがあれば、その時は…分かっているだろうな」

「…仕方ない…」


戦争が起きないだけまだましだろう。
珠々がここへ戻ってこなければいいだけなのだから。
二度と会えなくてもどこかで幸せに暮らしていればそれでいい。


「…さあもう帰るぞ小夜。…小夜?」

「…あ、うん…」


呆然と立ち尽くす小夜ちゃんは一瞬私の顔を見て秋彦の後に続いて帰って行った。

こんな話を聞いてどう思っただろうか。

幼なじみが鬼だったなんて珠々のことを憎むだろうか…。

それとも鬼とか人間とか関係なく幼なじみとして思ってくれるか…。

どちらにしろ私は自分の幼なじみも娘の幼なじみも村の皆も裏切ってしまった。

いずれ私は秋彦に罰をあたえられることになるだろうな。

でも珠々と過ごした日々は私の宝物だ。

これだけははっきり言える。

今宵の月を珠々も見ているだろうかと私は夜空を眺めながらそう思った。
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