晴れのち曇り ときどき溺愛
「別に頑張る必要はないんだけど少しの間でいいから立てる?主催者の挨拶の時だけでも立って貰うと助かる。登壇してからでいいから」


「はい。勿論です」


 そう言う私に下坂さんはまた優しく勘違いしてしまいそうな微笑みを向けてきた。この微笑みを見ているとどうしても一番最初に会ったあのお見合いの日を思い出してしまう。二回目に会った居酒屋で意地を張らなかったら、今頃どうなっていただろう。


 今となってはもう終わったことだけど、胸の奥に残された思いは今もたまに燻る。


「そろそろ始まる」


 ステージの横にあるマイクの前に黒いスーツの男の人が立つと先ほどまでの賑やかさが嘘のように静かになった。私は下坂さんの横に立つと、下坂さんはちらっとだけ私を見て、ステージ上に視線を移した。


「お待たせいたしました。ただ今より、株式会社アンバサダー創立記念パーティーを行います。代表取締役社長 長田圭吾より挨拶をさせていただきます」


 たくさんの拍手が鳴り響き、一人の男の人がステージに上った。その人はこんな大きなパーティを開くとは思えないほどの若い男の人だった。
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