晴れのち曇り ときどき溺愛
 少し年上くらいかなと思われる代表取締役社長の挨拶は流暢で澱みなく、それでいて、ウイットが効いていて、ホール内のあちこちで笑い声が湧く。そんな楽しい雰囲気に一気に持ち上げてから、歓談の時間が始まった。


 私の仕事は下坂さんの横に立ち、挨拶をしている間に微笑みながら頷くこと。何も話さなくていいと思うと少しは気は楽だけど心臓の音が煩くて仕方ない。


「そろそろ挨拶だけど大丈夫?」


 一緒に挨拶に回るために今日は来ている。恥ずかしくないようにパーティでのマナーのサイトまで読んできたのもこのためだった。


「はい。大丈夫です。頑張ります」

「そんなに頑張らなくてもいいよ。さ、行こう」


 下坂さんはゆっくりと自分の腕を動かし、身体との間に隙間を作る。見上げると綺麗な顔には優しさが浮かんでいる。そこに私は自分の腕を絡めるとゆっくりと引かれた。エスコートされながら歩くのは緊張するけど、この腕に掴まっていたらいいと思えば安心もする。


 一番最初はこのパーティの主催の方に向かって歩きだす。でも、真っ直ぐに辿りつけなかった。歩く度に下坂さんは色々な人に声を掛けられる。その度に下坂さんは相手を紹介してくれ、私のことも紹介してくれる。


『今、一緒に働いている人で、とても優秀なんだ。今日はどうしてもとお願いして一緒に来て貰ったんだ』と。
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