晴れのち曇り ときどき溺愛
 大事な女…。


 それは下坂さんが絵里菜さんに向かっての言葉は四葉さんを牽制するのが目的だと分かる。でも、私の胸の奥が軋りと痛んだのも嘘じゃない。婚約者というのはやっぱり今は発表できない事情のある事柄なのだろう。


「春臣も絵里菜さんが好きなのか?」


 失恋した痛みに塩を塗り込まれている気がする。恋の終わりはこんなにも苦しいものだっただろうか?前の恋は自然消滅だったので、こんなにも痛みは感じなかった。でも、始まってもない恋にこんなに痛みを感じるとは思わなかった。


「お前には関係ない。で、まだ用事があるのか?俺はちょっと大事な仕事の話を隆二としようと思うんだが」

「分かった。お前がそういうなら遠慮する。じゃ、隆二、絵里菜さん。諸住さん。また」


 そういうと、四葉さんとその取り巻きらしき二人の男の人は行ってしまった。その後ろ姿を見て、進藤さんはフッと息を吐いた。そして、絵里菜さんも止まっていた手をゆっくりと動かし、テーブルに置かれていたコーヒーではなく、既に泡が消えてしまったシャンパンに口を付けた。綺麗な喉がコクンと動く。

「助かった。春臣」

 進藤さんは心底ホッとした表情を浮かべ、下坂さんも進藤さんの肩を軽くポンポンと叩いたのだった。そして、下坂さんも穏やかな表情を浮かべた。
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