晴れのち曇り ときどき溺愛
 その後、拳は何も言わなかった。琉生のことも下坂さんの事も言わずに一緒に世間話をしながら食事をして、拳のオフィスを出たのはそれから直ぐだった。

 拳も仕事があるし、私も早く自分の部屋に戻りたかった。あまりにも自分の頭の中が混乱しすぎて可笑しくなりそうだった。親会社の御曹司と言うのでもかなりだったのに、桂川グループの後継者となると話は違いすぎる。


 身分違いって本当にあるんだと思った。絵里菜さんなら性格もいいし、優しいし、綺麗だし言うことなし。きっと、下坂さんは幸せになれると思う。私は今までのことを忘れるだけでいい。何もなく仕事を一緒にする上司と接するしかない。


「でも、辛いかな」

 そんな言葉を呟きながら自分のマンションまで帰ってくると、そこには見たことのある車が停まっている。会社の駐車場にあるのを何度も見たことのある車で、私の姿を見つけたのか、ドアが開き、中からはさっき営業室で別れた時と同じスーツを来た下坂さんが降りてきた。


『なんでここにいるんだろ』そう思ったのが一番で、二番目に思ったのは…。『今日だけは会いたくなかった』だった。


「お疲れ様です。何かありましたか?」

「携帯に連絡しても繋がらなかったから」


 携帯を取り出しと、拳のオフィスに居たくらいの時間に下坂さんから電話が入っていた。その他にもメールが入っていて、『連絡をして欲しい』とだけ書かれてあった。

「すみません。友人と会ってました」
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