魅惑への助走
 「何となく弁護士に憧れての進路選択だったけど……、ここまで頑張っても結果が出ないってことは、やっぱり向いていないのかも」


 悲観的な上杉くんの原因は、先日の模擬テストで成績が芳しくなかったかららしい。


 「高校までの進路指導って、将来の夢を成績優秀者順に割り振っていく傾向があるよね。成績がよければ医者、弁護士、官僚……」


 「成績上位者は、進路調査の際に医学部や有名大学の法学部を薦められるのが現状かもね」


 「そう。向いているか向いていないかは二の次で」


 「でも上杉くんは、子供の頃から弁護士に憧れていたんでしょ?」


 「そうなんだけどね。でも実際問題、司法試験と言う大きな壁が」


 「憧れる気持ちが消え去っていないのなら、あきらめないほうがいいと思う」


 「武田さん」


 「一度あきらめてしまうと、後からもう一度チャレンジしようと思っても手遅れになったりで、絶対後悔する……!」


 私は、自分の夢だった小説家への夢と照らし合わせていた。


 当面は生活のために仕事をして、合間に夢のための時間を設けようと最初は考えていたのだけど。


 気がついたら忙しい毎日に追われて、そんな余裕なくなっている。
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