魅惑への助走
 ……少なくともミキって女の人だけは、ただの昔なじみなだけではないように思えた。


 何回会っても、どんなに親しくなっても、私を「武田さん」としか呼ばない上杉くんが。


 あの女の人のことは、「ミキ」って下の名前で呼んでいる。


 そればかりではない。


 ミキって人も、上杉くんを下の名前で……。


 「……」


 現段階で、自分が上杉くんと一番親しい間柄にある女性だと確信していた私は、少なからずショックを受けた。


 あんな人がいたなんて。


 しかも綺麗で、浴衣の似合う……。


 それに……ただの友達には見えない。


 もしかしたら元カノとか?


 いや、今でも完全に切れていないのかも?


 上杉くんはミキさん一行と、なかなか話をやめない。


 私のほうへ戻ってこない。


 熱帯夜とはいかないまでも、十分に暑い夜なのに、私の周りにだけ一足早い秋風が吹いているかのように感じられた。
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