魅惑への助走
 「じゃ俺様。彼女から手を離してください。嫌がってるじゃないですか?」


 「何だ貴様。貴様に言われる筋合いはねえ。第一貴様何者なんだよ」


 ジムで日々体を鍛え、腕に自信があると思われる片桐は、かなり強気で上杉くんに対峙していた。


 「僕は貴様です。だってあなた、すでに僕のこと三度も貴様って呼んだじゃないですか」


 「こ、このガキ! ざけんなよ」


 上杉くんがのらりくらりとかわすので、片桐はますます腹を立てた模様。


 殴り合いに発展しないか心配だった。


 片桐は私と同い年。


 ということは片桐と上杉くんもまた、同い年。


 高校を卒業後、いくつかのアルバイトを経てAV業界入りし、今では若手人気AV男優として活躍している片桐に対し。


 大学卒業後、まだ社会に出た経験のない上杉くんは若いというか、むしろ幼く見えた。


 背はかなり上杉くんのほうが高いけれど、鍛えている分だけケンカになれば片桐に分がありそう。


 ケンカも困るとはいえ、私が最も恐れるのは……。
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