魅惑への助走
 「お前、このお方をどなただと思ってるんだ」


 二人の問答を目の当たりにしていた片桐の子分が、口を挟んできた。


 「申し訳ないですが、今会ったばかりなのに、僕があなたたちの名前も素性も何もかも分かったとしたら、超能力者か個人情報の流出かどちらかだと思われますが」


 「貴様、一々言うことが訳分かんねえんだよ」


 片桐はかなり苛立っている。


 「とにかく、ガキはもうお家に帰んな。これからは大人の時間だ」


 力づくでも片桐は、上杉くんを追い払おうとした。


 「勝手に現れて、先に来ていた僕を追い出そうなんて、ちょっと横暴が過ぎませんか」


 「貴様、痛い目に遭わねえと分かんねえようだな」


 片桐は指をポキポキ鳴らし始めた。


 ケンカを始めるつもりだろうか。


 さすがに周囲を行き交う人たちも、異様な雰囲気に気づき始め、こちらを注視しながらざわつき出した。


 せっかくの楽しいお祭りが……。
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