魅惑への助走
 「何だてめえは。邪魔されたのはこっちのほうなんだけど」


 引くに引けない片桐は、今度はスーツの人に対峙する。


 どこかで見たことのあるこの人、上杉くんよりはかなり年上みたいだ。


 やはり大学の先輩とかなのだろうか。


 「何かあったのですか」


 その時だった。


 お祭りを見回り中の警官が二人、私たち一同に尋ねてきた。


 大人数でお祭り会場の一角にて、物々しい雰囲気をかもし出していたのだから、当然の成り行きだろう。


 「あ、大したことじゃありません。ちょっとした誤解がありまして。ね、君たち」


 スーツの人は片桐たちに同意を求めた。


 片桐たちも警察沙汰にはなりたくないので、ムカついてはいたものの口を閉ざした。


 「あれ、もしかして」


 警察はそのスーツ姿の人の正体に気がついた。


 法律相談を織り込んだ人気テレビ番組にも登場する、有名弁護士だったのだ。


 上杉くんの大学のゼミの大先輩で、今晩は同窓生で集まって、花火大会会場近くのビアガーデンに行く途中だったという。
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