魅惑への助走
 蛇口をひねり、シャワーのお湯を体に浴びせる。


 夕方になってもまだ、黙っていても汗が流れるような暑い中、お祭り会場から花火大会までずっと歩き回り。


 体にまとわり付いた汗を流すお湯が心地よい。


 これから抱かれるのだと思うと、体の奥から痺れるような感覚。


 慣れているはずなのに。


 久しぶりだからかもしれない。


 だけど、初めてかもしれない。


 私のほうからこんなに誰かを欲しいと思うのは。


 今までは誘われ、求められるがままに……というパターンばかりだった。


 遊び慣れた男や、結婚生活に不満を持つ男たちの暇つぶしの相手、遊び目的ばかりで。


 私のほうは、心も体も満たされることなく。


 ……お湯を出しっ放しにながら、そんなことをあれこれ考えていた。
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