魅惑への助走
 「や、やっぱりまずいよこんな」


 「どうして?」


 この期に及んで上杉くんが私を拒む理由が分からず、聞き返すしかなかった。


 「だって俺たち……。付き合っているわけでもないし」


 「え?」


 付き合ってない?


 それが拒む理由になるとは、予想外だった。


 今までの私、特定のパートナーのいる相手どころか、妻帯者とも当たり前のようにこういうことをしてきた。


 その人たちにとっては「浮気」になるにもかかわらず、誰一人として罪悪感など持ち合わせていなかった。


 正式なパートナー同士でないことが、その後の展開を妨げる理由になどなりはしなかった。


 でも上杉くんは真面目なのかな。


 「だったら今からでも、私と付き合って」


 再会後いつも一緒で、恋人と呼んでも違和感ない日々が続いているので、私に異論はなかったのに。


 「そ、それはできない」


 「どうして。いつも一緒にいるのに」


 「無理なんだ」


 「もしかして他に誰かいるの?」


 「違う、そういうわけでは」


 「だったら同性が恋愛対象とかなの?」


 「それも違う。全然違う」
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