魅惑への助走
 「ならばどうして? 私は上杉くんが好き。上杉くんは私じゃだめなの?」


 「ごめん、そういう問題じゃないんだ。……俺、浪人中だし。武田さんには相応しくないと思うし」


 「浪人? そんなの一時のことじゃない」


 「でも将来の見通しもまだ立てられない俺となんかじゃ、武田さんに迷惑がかかるし」


 浪人中の身分を理由に、上杉くんは私を拒もうとしている。


 でも……。


 「浪人中ってことは差し置いて。私は上杉くんが好き。上杉くんは私のこと、好きじゃないの?」


 「武田さん、」


 「今この瞬間の好きって気持ちを、最優先させちゃだめかな……?」


 上杉くんの目を見つめながら、再びその手を取った。


 「上杉くんの気持ちも聞きたい」


 手を引き、再びソファーにその身を引き寄せ、私のほうから抱きしめた。


 「私じゃだめ……?」


 両腕で体を包み込みながら、耳元で尋ねた。


 「いつくらいからかな……。勉強だらけの単調な毎日に、武田さんのそばにいるだけで安らぎを感じるようになったんだ」


 「じゃ、私のこと……好き?」


 「好きだよ。でも」


 「でも?」


 やはり浪人中だから、私を幸せにはできないから、これ以上先に進むべきではないと説く。
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