魅惑への助走
 寝室のベッドに場を変え、横たわる。


 唇を重ねるのも、指で肌を求めるのも、服を脱がすのも。


 何もかもが私のほう。


 これじゃまさに、私が襲っているようにしか見えない。


 「私を脱がしてはくれないの?」


 「あ、ごめん」


 上杉くんが電気を消してほしいと頼むから、部屋の灯りは消され、枕元の読書用スタンドの豆電球のみ。


 その暗さに目が慣れないのか、私の服を脱がす手つきもモタモタしている。


 場慣れした男たちの手際よい脱がせ方と比べると、ふざけているかのよう。


 「いいよ。私がするから」


 Tシャツが巻きついて髪の毛に絡まったので、自分で脱いでしまった。


 外は熱帯夜に近い暑さだけど、部屋にはやんわりとエアコンが効いているので、露わになった肌にとした空気を感じた。


 「脱いだら夏なのに寒くなっちゃった」


 それを口実に上杉くんに肌を寄せ、抱き付く。


 触れ合う肌と肌。


 互いの熱ばかりか、鼓動までも響いてきて。


 このまま何もかも一つになってしまいたいという情熱しか、今の私には存在しないかのよう。
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