魅惑への助走
 「うん。携帯小説サイトに発表してみたんだけど。文芸部時代、ある程度の評価を受けいていたから、そこそこ自信はあったんだよね」


 「それで……?」


 「全然ダメだった」


 「えっ、どうしてですか?」


 実力があって、いずれは時代物作家としてデビューするであろうと、文芸部内でも有力視されていた榊原先輩が。


 全然ダメだったとは何故?


 「携帯小説では、誰も本格的な時代小説なんて望んでないんだよね」


 「ならばどんなのが必要とされているんですか」


 「エロ小説」


 「えっ、エロ!?」


 私はまた大声を出してしまった。


 再び周囲の人たちが、一斉に私の方を見る。


 正午が近づき、先程よりはお客さんが増えている。


 「そう。エロで読者を釣る、エロ釣り小説。試しに書いてみたら、時代ものを書いていた時には考えられないくらいの読者が付いて」


 「エロ釣り……」


 「試しにサイト主催のコンテストに応募してみたら、受賞はならなかったんだけど、スカウトされちゃったの」


 「スカウト? 誰にですか?」


 「アダルトビデオメーカーに」
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