魅惑への助走
 昨夜お祭り会場で片桐にナンパされ、上杉くんのゼミ仲間が登場してそれを追い払い。


 花火を見ながら初めてのキス。


 私の部屋で初めての夜。


 それらはまだ、24時間前の出来事だとは信じられないくらい。


 この一日あまりにも濃密で、ちょっと前のことですらずっと前のことのように感じられる。


 ……まだ終わったわけではない。


 これから二人でどれくらいたくさんの時間を、共に歩んでいけるか。


 考えただけで嬉しくて、微笑んでしまう。


 「武田さん、何を食べる? あ、つい癖で。……明美」


 未だに私の名前を呼び慣れない様子。


 時折間違って「武田さん」と呼んでしまう。


 一方私は、下の名前で呼ばないで「上杉くん」を貫いている。


 下の名前は、さっき同級生の美木さんが呼んでいたので。


 先を越されたような気がしてなんか悔しくて、私はこれからも「上杉くん」のままにすることにした。
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