魅惑への助走
 商店街の近郊には、ファミリーレストランがいくつかある。


 その中の一軒を選び、私は冷製パスタを食べることにした。


 向かい合って座り、メニュー表を眺めオーダーし、間もなく食べ物が提供される。


 フォークで麺を巻き、口に運ぶ。


 顔を上げた時、ふと目が合う。


 そんな些細なことすら嬉しくて、一々微笑み合う。


 食後のパフェ、大きいものを一個だけ注文して、スプーンでアイスを大きくえぐって上杉くんの口元へと運ぶ。


 ぱくっと一口で食べてくれたことが嬉しくて、また微笑み合う。


 以前の私だったら、こんなカップルの隣の席に座っていようものなら、冷めた目で眺めながら「バカップル」と冷笑したかもしれない。


 だけど好きな人と一緒の空間では。


 全ての行動が微笑みに変わってしまうほど、幸せでたまらなかったのだ。
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