魅惑への助走
 ……。


 「武田さん。俺の着替え、間違ってどっかに持って行かなかった?」


 部屋に戻ってすぐ、私はバスルームに向かった。


 上杉くんに一緒に入ろうかと提案したけれど、恥ずかしいからって断られた。


 私と入れ替わりに上杉くんが入り、身を清めた。


 バスタオルを用意して、着替え置き場に置いておく。


 着替えはさっきコンビニで調達していた様子。


 いたずらしてそれを隠してやった。


 まさかいたずらだとは夢にも思わず、上杉くんは私がうっかり片付けたのだと判断し、尋ねてきた。


 「さあ。知らない」


 すでにベッドに横たわり、明日からの仕事で使うAVの台本に目を通していた私は。


 とっさにAV台本を隠し、シーツをかぶって寝たふりをした。


 「おかしいなあ。さっき確かにここに準備しておいたのに……」


 上杉くんがバスルームの前で、裸で空のカゴをゴソゴソいじっている気配がする。


 ベッドの中で笑いをかみ殺す私。
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