魅惑への助走
 さてそろそろ……。


 「あっ、ここにあった! 間違って持ってきちゃった」


 大声で告げる。


 「えっ、どこ?」


 「こっちこっち」


 上杉くんはおびき寄せられ、私の待つ寝室へと入ってきた。


 腰にバスタオルを巻いているので、正式には裸ではないけれど。


 「あれ? 俺の着替えは?」


 「そこ」


 一式は、私のデスクの上に置いてある。


 「よかった。着るものなくなって困ってたんだ」


 安堵の表情で上杉くんは私の横を通り抜け、デスク上の着替え一式を手に取ろうとしたその時、


 「ちょっと待った」


 通り抜けようとした際に手首を捕まえ、そのままベッドに引きずり込んだ。


 「えっ、武田さん!?」


 急に力技でベッドに倒され、上杉くんは驚いている。


 「……さっきからまた、私を名字で呼んでる」


 「あ、ごめん。また癖で。ずっと武田さんって呼んでたから、なかなか切り替わらなくて」


 「明、美!」


 「明美」


 その声、私の鼓膜を震わす甘い声で呼ばれると、性的快感をしのぐほどの満ち足りた喜びを得られる。
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