魅惑への助走
 「私、もしかして邪魔してたりするのかな」


 急に不安に襲われた。


 まさか一日中、24時間ずっと勉強し続けるのは不可能だし、長時間勉強ばっかりでも能率が上がらないので。


 勉強の息抜きになれればと思い一緒にいたり、支えになりたいと願って付き合うことにしたのだけど。


 それは自分の一人よがりに過ぎず、現実は上杉くんの勉強の邪魔をしているだけで、集中を妨げているだけだったとか?


 「ちょっと控えたほうがいいと思ったら、正直に話して。今一番大切なのは、上杉くんが試験に合格することだから」


 いじけてそう告げたわけではない。


 私との目の前の一瞬に溺れて、肝心な上杉くんの将来を台無しにさせることだけは避けたかった。


 「本音を言うと」


 背を向けた私の手首を上杉くんは掴み、驚くべきことを口にした。


 「明美のそばにいられるなら、司法試験なんてどうでもよくなってきたような気がするんだ」
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